令和8年熊本地震 災害医療派遣活動報告
― 泉川病院災害医療派遣チームによる医療支援活動 ―
はじめに
令和8年7月28日16時27分、熊本県を中心にマグニチュード7.1の地震が発生。宇城市および氷川町では震度7を観測。発災直後から、被災地域では建物被害やライフラインの途絶等が相次ぎ、多くの住民が避難所への避難を余儀なくされました。被災地の医療機関および避難所では、外傷をはじめとする急性期の医療対応に加え、避難生活の長期化に伴う体調不良、熱中症、感染症等への対応が必要となることが想定される。
第1日目
泉川病院では発災時、隊員数名がペースメーカー手術に従事していたが発災直後より被災状況および現地の医療ニーズに関する情報収集を行った。情報収集後、災害地域での活動が必要と判断、災害医療派遣チームの17時出動準備を開始。これまでの災害医療活動で得た経験を踏まえ、現地での診療・救護活動に加え、支援物資の搬送等を含む後方支援体制を整備、18時30分、途中合流の隊員1名を含めた10名、災害車両1台、救急車両1台、診療車両1台、物資運搬トラック2台で熊本県宇城市へ向けて出動。
南島原市深江町泉川病院出発、当初は高速道路、国道を使用して現地へ向かう予定ではあったが、島原市国見町にある多比良港有明フェリーに運行状況を確認したところ、災害派遣とのことで特別に運行して頂けるとのことで19時に有明フェリーの御協力の上で長洲港行のフェリーに乗船。長洲港に到着後は国道を走行にて被害が大きいとされた宇城市に向かう。



熊本県上益城郡 イオンモール熊本へ到着、多数報道されているように建物の一部がガス爆発により崩壊している様子。既に数隊の救急対応チームが現場におり、イオンモール内の捜索、救助活動が開始されていた。対策本部と接触、現在の医療ニーズに関して聞き取りを施行。21時20分の時点で100人程の消防レスキュー隊、熊本赤十字病院のDMATが2隊待機中であった。レスキュー隊、DMATと情報共有、当院災害チームは救出された被災者のトリアージ、搬送先を決定する任につく事となる。同時点でチーム全体を待機させる事は現在までの我々の経験上最善ではないと判断。DMAT 2隊も待機しているため、医師、看護師、検査技師を待機させ、残りの隊員を巡回チームとして被害が甚大であると報道されている宇城市へ移動となる。



7月28日 22時30分
熊本県宇城市役所に到着
巡回チームは市役所にて被害状況、避難所の情報を収集、市役所担当者と相談の上で6か所ある、避難所を巡回、健康観察を行う事になる。

避難所巡回
巡回チームは宇城市内の6か所ある避難所(小川総合文化センター・不知火防災拠点センター・松橋西防災拠点センター・松橋東防災拠点センター・三角防災拠点センター・三角B&G 海洋センター)を巡回、避難者の健康状態や避難所環境、医療支援の必要性を確認。
各避難所では、避難者の人数や生活状況、体調不良者の有無、慢性疾患を持つ方への配慮、暑さや衛生環境による健康リスク、支援物資の不足状況などを確認、必要とされる医療支援の内容、医療ニーズを確認。各避難所に縫合が必要な被災者、また脱水等が予想された被災者を数名確認、イオンモール待機中の医師に連絡、各避難所で縫合、点滴加療を開始。巡回した避難所にて数百人の避難者が道路に寝ている姿を発見、当チームは20数回の被災地域に出動した経験があるが道路で寝ている姿は見たことがなかった、クーラーがない避難所より道路が涼しいとのこと、改めて猛暑での災害の怖さを感じた。
7月28日の活動は29日午前4時まで行われ、第一日目の活動終了。医師・看護師がイオンモール待機へ向かい、その他の隊員は宇城市市役所駐車場、屋内にて休息となる。
7月29日4時 避難所6か所、避難者数不明。


*後方支援チーム*
7月28日23時、先発派遣チームの報告より現地での異常酷暑、被災者の脱水予測より災害医療派遣チームの後方支援チームに活動支援を指示。外科処置セット、点滴セット、また2リットル入り飲料水432本を購入、宇城市内で活動する先発チームへの搬送補充となる。後方支援チームは物資を購入して29日午前11時に先発チームと合流、補充終了。
第2日目 7月29日(水)
7月29日早朝、宇城市役所から傷病者への対応依頼を受け、避難所での医療支援を再開。
避難所での医療支援
宇城市役所からの依頼を受け、避難所巡回チームが不知火防災拠点センターへ向かい、避難所での創傷処置、体調不良者への問診点滴、健康状態などを確認。縫合処置が必要な被災者に関してはイオンモール待機中の医師が往診処置施行。時間経過と共に熱中症に体調不良、創部の処置が必要な避難者が増加してきた、その都度、縫合処置、点滴処置が必要になり、相当数の処置を施行。当チームが持参している点滴、縫合セットの残数が気になり始める。
29日12時時点で他の医療支援はなし。同時点で小川防災センターが一番被災者数1000人を超えているため、小川防災センターを中心に活動とした。



新たな避難所への支援
7月29日15時夕方、市役所より新たな避難所について確認依頼あり、追加された避難所は、不知火小学校、小野部田小学校、松橋中学校の3か所。現在イオンモール・避難所巡回チームの2チームであったがさらにチームを分け合計3チームとして新たな避難所を巡回。各避難所で避難者数、避難者の健康状態、感染対策の実施状況、支援物資の状況、空調設備の状況、上下水道の使用状況、避難生活を送る上での環境などを確認。避難所は合計9か所となる。発災2日目、日中に野外にて冷房なしで片付け作業を行った被災者が夜間、避難所にて脱水に陥るケースが多数発生、診察、点滴施行。
災害発生直後は外傷患者への対応が注目されるが、時間の経過とともに、暑さや避難生活による体調不良など、災害に伴って生じる二次的な健康被害への対応を行い、避難所の環境確認と併せて健康状態を継続的に確認し、熱中症の早期発見と対応に注力した。
医師はイオンモールにて待機、他の隊員は宇城市役所にて休息。
7月29日23時 避難所9か所、避難者1500名以上。




第3日目 7月30日(木)
7月30日には、避難所において感染性腸炎を疑われる嘔吐下痢症状出現。感染性か暑さによる食中毒かは判断困難、避難所は多くの方が同じ空間で生活するため、感染症が発生した場合には、急速に感染が拡大する可能性があり。感染拡大予防ため、ゾーニング(避難所の環境整備を実施)、手指消毒を徹底。
同時に高温の状況が続き、熱中症患者が多数発生。必要に応じて点滴やクーリングなどの処置を実施。避難生活の中で怪我をした避難者も多く、創傷処置や縫合処置などの医療対応も継続実施。同時期より被災者の医療ニーズは、発災直後の外傷だけではなく、避難生活に伴うさまざまな健康問題へと変化していった。
前日より避難所にクーラーが使用され始めたが、使用時高齢者は寒く・高齢者以外は暑い等、対応も細分化され始める。



感染症専門医との連携
7月30日、12時
感染症対策としてDICT(disaster infection control team)先遣隊の巡回チームを率いている長崎大学 泉川公一教授の巡回あり、感染症の発生状況を踏まえた環境整備や感染防御を指導していただく。災害時には、限られた医療資源の中で、発生している課題に応じて専門的知識を有する医療者と連携が重要であり、多職種・多機関との連携を図りながら、避難者の安全確保と感染拡大防止に努めた。


7月30日15時 問い合わせをしていたDMAT先遣隊が到着、現状を説明したが至急の対応引継ぎは困難との返答あり。
7月30日17時、他医療支援が見込めず、当チームの活動物資(医療物資・隊員の飲食物)等が不足となる。活動継続のためにチームを2チームに分けて対応、1チームは活動を終了して帰院、再出動に備えるように指示。残留チームは各避難所への巡回や避難者の健康確認などの支援活動を継続とした。
イオンモール待機に関しては徐々に他のDMATチームも到着したため7月30日11時で待機を終了とさせていただいた。
7月30日 避難者は約1500名、避難所は9か所
他の医療支援はなし。宇城市に当災害支援チームのみ。
第4日目 7月31日
残留したチームは、各避難所の巡回、避難者の健康状態の確認、熱中症患者への対応、感染防御対策、避難所の環境整備を実施。午前11時DMATチームが到着。DMATに対し、再度これまでの活動内容や各避難所の状況、継続して注意すべき事項などを引き継ぐ。
7月31日13時に当院の災害医療支援チームの活動を終了し帰院。
7月31日 避難者は約1300名、避難所は9か所
今回の活動を通して
災害医療支援では、発災直後の救出後医療支援から始まり、避難所巡回、傷病者への処置、熱中症への対応、感染症対策、避難所環境の確認、飲料水の後方支援、さらに次の医療支援チームへの引き継ぎまで、幅広い活動を行い、現地で直接医療活動を行うチームだけでなく、泉川病院から飲料水を搬送する後方支援チームも組織し、先に現地へ入った派遣チームの活動を継続的に支える役割を果たした。
災害医療においては、傷病者を診療することだけが医療支援ではない。避難所の環境を確認し、感染症の発生を予防し、熱中症を防ぎ、必要な物資を確保し、行政や他の医療支援チームと情報を共有することも、被災者の命と健康を守るために欠かすことのできない活動である。今回、現地での活動を通じて、災害発生直後から時間の経過とともに変化する医療ニーズを把握。その時々に必要な支援を行うことの重要性を改めて認識し、また行政機関、避難所、他の医療支援チーム、専門医など、多くの関係者との連携があってこそ、継続的な災害医療支援が可能になることを実感した。
今回の活動で得られた経験や課題を、今後の院内災害訓練や災害医療体制のさらなる充実へ。次の備えにつなげていきたいと考えています。

おわりに
今回の地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く被災地域の生活が復旧し、皆さまが安心して日常生活を取り戻されることを願っております。
泉川病院災害医療派遣チームは、これまでの災害医療活動で培った経験を生かし、今後も災害発生時には迅速に現地へ赴き、被災された方々に必要な医療を届けられるよう努めてまいります。また、平時からの訓練と備えを大切にし、地域医療を担う病院として、災害時にも地域や被災地を支えることのできる医療体制の構築に取り組んでまいります。日々の備えを、次の支援の力へ。
泉川病院災害医療派遣チーム
